デイサービス経営者が知っておくべき損益計算書のポイントを解説
「損益計算書の見方が全くわからない」
「デイサービスでも損益計算書で重要なの?」
このような悩みを抱えているデイサービス経営者も多いでしょう。簡単なルールを理解できれば、損益計算書をデイサービス運営に役立てられます。今回は、デイサービス管理者が理解しておくべき損益計算書の見方とチェックすべきポイントについて解説します。
デイサービス経営における損益計算書とは
損益計算書は全ての企業が作成する決算書のひとつです。会社の経営成績を収益と費用で比較して、その差額として利益を示します。会計の世界では「P/L」と略されることもあるので覚えておきましょう。
実際の損益計算書を見てみると、難しい言葉と数字が並んでいますが、記載してある内容はすべて「収益 – 費用」で示されています。「何から何を差し引いた利益なのか」を理解できていれば、読み解くのは難しくありません。
収益 – 費用 = 利益
デイサービスの損益計算書の見方
損益計算書を確認する際は、まず以下の5つの利益を確認しましょう。
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前当期純利益
- 当期純利益
損益計算書にはさまざまな勘定科目が書いてあるので、全ての勘定科目に目を通す人もいるかもしれません。しかし、最初は5つの利益を確認するところから始めるとよいでしょう。前期と比較して減少している利益があった場合、利益が減少した原因を探っていきます。
売上総利益
売上総利益は売上高から売上原価を差し引いた数値で、企業の主たる営業活動から発生する収入部分です。
売上原価は売上高に対応する原価ですが、デイサービスの場合は0円となっている場合が多いでしょう。製造業や飲食店などは、売り上げを出すために原材料を購入する必要があります。しかし、デイサービスのようなサービス業では原価は必要ありません。
売上総利益は、企業の基本的な収益力を示しています。
売上高 – 売上原価 = 売上総利益
営業利益
営業利益は、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額です。販売費及び一般管理費は、会社の販売活動や管理等に係る費用にあたります。
例えば、従業員給与、旅費交通費、消耗品費などが販売費及び一般管理費に分類されます。デイサービスの場合は、従業員給与の割合が1番高くなる傾向があるでしょう。また、送迎に必要な車両費も高くなりがちです。
必要な経費は事業所の環境によって異なるので、簡単に比較できるものではありません。他の会社の平均値と比較するのではなく、自社の前期と比較することが重要です。多くの損益計算書には、前期と比較して何%変化したのか記載してあります。どの勘定科目が大きく変動しているのか確認するのもよいでしょう。
売上総利益 – 販売費及び – 一般管理費 = 営業利益
経常利益
経常利益は、営業利益と営業外収益を合算した金額から営業外費用を差し引いた金額を指します。
営業外収益とは、本来の営業活動以外から発生した収益のことです。営業外費用は、本来の営業活動以外に要した費用をいいます。営業外収益や営業外費用の例として、受取利息、受取配当金、支払利息、雑支出等があります。例えば、デイサービスの営業時間外に健康教室を実施した収益などは営業外収益に含まれるでしょう。
営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用 = 経常利益
税引前当期純利益
税引前当期純利益とは、経常利益と特別利益を合算した金額から特別損失を差し引いた金額のことです。
特別利益は本来の営業活動以外で臨時的に発生した収益のことで、特別損失は本来の営業活動以外で臨時的に発生した費用を示します。例えば、投資有価証券売却益や固定資産売却損などが含まれます。デイサービスを経営するうえで、税引前当期純利益を気にする機会は少ないでしょう。
経常利益 + 特別利益 – 特別損失 = 税引前当期純利益
当期純利益
税引前当期純利益から法人税等を差し引いた金額が当期純利益です。当期純利益は最終的に会社に残るお金を示しています。法人税等には、利益に課税される法人税、住民税及び事業税などを含みます。最終的に会社がどれくらい稼いでいるのか知りたい方は、当期純利益を確認するとよいでしょう。
税引前当期純利益 – 法人税等 = 当期純利益
損益計算書の役割
損益計算書は「会社の成績表」といわれており、一定期間の会社の成績を細かく分析できるように記載されています。基本的には上から下へ(売上総利益から当期純利益)向かって目を通していくとよいでしょう。
5つの利益を確認しながら気になった数字があれば、細かい勘定科目に目を通して原因を探ります。前年比も合わせて確認すると、より会社の状況を理解しやすいでしょう。
損益計算書と貸借対照表
損益計算書と合わせて必要な決算書類として貸借対照表があります。貸借対照表とは、借方と貸方を比較対照して、ある時点(期末)における会社の財政状態を表す資料のことです。損益計算書は一定期間の会社の成績、貸借対照表は期末時点での会社の状況を示していると理解しておきましょう。
貸借対照表は、会社全体で見た貸方と借方の状況を示しているので、1事業所の成績を知るためには利用できません。デイサービスの経営状況を知るには、損益計算書を確認しましょう。
デイサービス経営者が損益計算書を見る意義
デイサービス経営者が損益計算書を確認することで以下のようなメリットがあります。
- デイサービス運営に必要な経費が分かる
- デイサービスの経営状況がわかる
- 業績が悪化した原因が分かる
各項目について解説します。
デイサービス運営に必要な経費がわかる
デイサービスを運営していくためには、さまざまな経費が必要です。1番多い費用は人件費、次に家賃や車両費となる場合が多いでしょう。しかし、それ以外の経費も把握しておかなければいけません。
例えば、デイサービスで使うおむつやトイレットペーパーなどは消耗品費として計上されます。もしかすると、物価が上昇した影響で消耗品費がかなり上昇しているかもしれません。また、夏場、冬場は水道光熱費が上昇します。毎年かかる費用の変動幅を把握しておくと、現場業務を管理する際に役立つでしょう。
デイサービスの経営状況がわかる
デイサービス経営者が損益計算書を確認すると、デイサービスの経営状況を判断することもできます。
例えば、デイサービスの理想的な人件費は売り上げの55%程度だといわれています。また、一般的に事務所や飲食店の家賃は売上の10%〜20%程度とされているので、デイサービス経営の家賃も10%〜20%程度に抑えるとよいでしょう。売上高に対して人件費や家賃は適切なのか判断する際にも役立ちます。
業績が悪化した原因がわかる
損益計算書を把握しておくことで、デイサービスの業績が悪化した際に原因を分析しやすくなります。業績が悪化した場合、前期比を確認しましょう。
前期比で低下している利益が確認できたら、詳細な勘定科目に目を通して原因を探ります。損益計算書を確認せずに対策を立てると、見当違いの方法を選んでしまうかもしれません。また、損益計算書を確認することで、現場にいるスタッフからは想像もつかない原因が発覚する可能性もあります。
損益計算書を確認する際の注意点
損益計算書は過去の記録であることを覚えておきましょう。毎月会計処理を実施している事業所でも、損益計算書が確認できるのは翌月です。現在のお金を確認するものではありません。
デイサービスで発生する利益の約9割は介護保険の保険給付で得られます。今月の実績を提出後、国民健康保険団体連合が実績を審査して、事業所が保険給付を受け取れるまで約2ヶ月必要です。損益計算書に記載されるのは今月の営業活動に対する数字なので、損益計算書に記載されている数字と入金されるタイミングにズレがあることを覚えておきましょう。
まとめ
今回はデイサービス経営者が知っておくべき損益計算書の要点について解説しました。デイサービスの経営者は、損益計算書を必ず確認しなければいけません。損益計算書は、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益という5つの利益が記載されています。5つの利益について前期と比較することで、デイサービスの経営状況を把握しやすくなるでしょう。