地域密着型通所介護施設における運営指導(旧:実地指導)とは何なのか?
「実地指導・・聞いただけでゾッとする」
「そもそも運営指導(実地指導)とはなんだろう?」
という経営者や管理者の方もいらっしゃると思います。今回は地域密着型通所介護の運営指導の概要や実際について解説していきます。
介護保険施設等の運営指導(旧:実施指導)とは?
運営指導とは、介護保険施設ごとに、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況等の確認のため行われる行政指導のことです。都道府県又は市町村が主体となり、都道府県又は市町村がその指定、許可の権限を持つ全ての介護保険施設等を対象に、計画的、かつ個別に原則実地により行います。
運営指導は、集団指導(制度改正や介護報酬の内容などについて介護保険事業者に周知徹底させる目的で講習等の方法で実施される)で発信された情報が確実に介護保険施設に届いているかを確認する機会となっています。つまり、介護保険施設が行うサービスについて、日々のサービスで正しくサービス提供ができているか確認する機会でもあります。
*令和4年度から「実地指導」から「運営指導」に名称が変更されたため、介護業界では「実地指導」という名称の方がポピュラーです。
地域密着型通所介護施設とは?
地域密着型通所介護とは、定員18人以下の小規模なデイサービスのことです。サービス内容は、入浴・食事・機能訓練・レクリエーションが中心で一般的な通所介護施設とは変わりありませんが、基本的にはサービス事業所のある市町村に居住する方しか利用することができません。
運営指導の具体的な方法
では実際はどのような項目を確認されるのでしょうか?
以下に整理していきます。
運営指導で確認される3項目
・介護サービスの実施状況指導:利用者一人ひとりが受けた個別のサービスの質及びサービス提供の基礎である施設設備を確認する
・最低基準等運営体制指導:人員及び運営の基準に規定する運営体制を確認する
・報酬請求指導:加算等の介護報酬請求の適正実施の確保のために行う
3種類があります。基本的には、これらは本マニュアルで定めた確認項目及び確認文
書に基づき、併せて行われます。(マニュアルp28)
運営指導の実施頻度
運営指導は、原則として指定又は許可の有効期間内に少なくとも1回以上、指導の対象となる介護保険施設等について行います。
地域密着型通所介護施設が運営指導の際に準備すること
地域密着型通所介護施設では実際どのようなことを確認されるのでしょうか。厚労省から発出されている介護保険施設等運営指導マニュアルを引用し内容を確認していきましょう。
介護保険施設等運営指導マニュアルについて「別添1 確認文書・確認項目一覧」
個別サービスの質に関する事項
設備及び備品等(第22条)
- 平面図に合致しているか【目視】
- 使用目的に沿って使われているか【目視】
確認文書
- 平面図
内容及び手続の説明及び同意(第3条の7)
- 利用申込者又はその家族への説明と同意の手続きを取っているか
- 重要事項説明書の内容に不備等はないか
確認文書
- 重要事項説明書(利用申込者又は家族の同意があったことがわかるもの)
- 利用契約書
心身の状況等の把握 (第23条)
- サービス担当者会議等に参加し、利用者の心身の状況把握に努めているか
確認文書
- サービス担当者会議の記録
居宅介護支援事業者等との連携(第3条の13)
- サービス担当者会議等を通じて介護支援専門員や他サービスと連携しているか
確認文書
- サービス担当者会議の記録
居宅サービス計画に沿ったサービスの提供(第3条の15)
- 居宅サービス計画に沿ったサービスが提供されているか
確認文書
- 居宅サービス計画
- 地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画(利用者及び家族の同意があったことがわかるもの)
サービスの提供の記録(第3条の18)
- 地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか
- 日々のサービスについて、具体的な内容や利用者の心身の状況等を記録しているか
- 送迎が適切に行われているか
確認文書
- サービス提供記録
- 業務日誌
- 送迎記録
地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画の作成 (第27条、第40条の9)
- 居宅サービス計画に基づいて地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画が立てられているか
- 利用者の心身の状況、希望および環境を踏まえて地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画が立てられているか
- サービスの具体的内容、時間、日程等が明らかになっているか
- 利用者又はその家族への説明・同意・交付は行われているか
- 目標の達成状況は記録されているか
- 達成状況に基づき、新たな地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画が立てられているか
- 訪問看護計画書の内容との整合を図っているか(療養通所介護に限る)
確認文書
- 居宅サービス計画
- 地域密着型通所介護計画又は療養通所介護計画(利用者又は家族の同意があったことがわかるもの)
- アセスメントシート
- モニタリングシート
個別サービスの質を確保するための体制に関する事項
従業者の員数(第20条、第40条)
- 利用者に対し、従業者の員数は適切であるか
- 必要な専門職が揃っているか
- 専門職は必要な資格を有しているか
確認文書
- 勤務実績表/タイムカード
- 勤務体制一覧表
- 従業者の資格証
管理者(第21条、第40条の2)
- 管理者は常勤専従か、他の職務を兼務している場合、兼務体制は適切か
- 管理者は看護師であるか(療養通所介護に限る)
確認文書
- 管理者の雇用形態が分かる文書
- 管理者の勤務実績表 /タイムカード
受給資格等の確認(第3条の10)
- 被保険者資格、要介護認定の有無、要介護認定の有効期限を確認しているか
確認文書- 介護保険番号、有効期限等を確認している記録等
利用料等の受領(第24条)
- 利用者からの費用徴収は適切に行われているか
- 領収書を発行しているか
- 医療費控除の記載は適切か
確認文書
- 請求書
- 領収書
緊急時等の対応 (第12条、第40条の10)
- 緊急時対応マニュアル等が整備されているか
- 緊急事態が発生した場合、速やかに主治の医師に連絡しているか
確認文書
- 緊急時対応マニュアル
- サービス提供記録
運営規程(第29条、第40条の12)
- 運営における以下の重要事項について定めているか
- 事業の目的及び運営の方針
- 従業者の職種、員数及び職務の内容
- 営業日及び営業時間
- 指定地域密着型通所介護の利用定員
- 指定地域密着型通所介護の内容及び利用料その他の費用の額
- 通常の事業の実施地域
- サービス利用に当たっての留意事項
- 緊急時等における対応方法
- 非常災害対策
- 虐待の防止のための措置に関する事項
- その他運営に関する重要事項
(療養通所介護)
- 事業の目的及び運営の方針
- 従業者の職種、員数及び職務の内容
- 営業日及び営業時間
- 指定療養通所介護の利用定員
- 指定療養通所介護の内容及び利用料その他の費用の額
- 通常の事業の実施地域
- サービス利用に当たっての留意事項
- 非常災害対策
- 虐待の防止のための措置に関する事項
- その他運営に関する重要事項
確認文書
- 運営規定
安全・サービス提供管理委員会の設置 (第 40 条の 14)
- 指定療養通所介護事業者は、安全・サービス提供管理委員会を概ね6月に1回以上開催しているか
- 安全・サービス提供管理委員会において、安全管理に必要なデータ収集を行っているか
- 安全・サービス提供管理委員会において、安全かつ適切なサービス提供確保のための方策 を検討し、記録しているか
確認文書
- 安全・サービス提供管理委員会の記録
勤務体制の確保等(第30条)
- サービス提供は事業所の従業者によって行われているか
- 資質向上のために研修の機会を確保しているか
- 勤務表の記載内容は適切か
- 認知症介護に係る基礎的な研修を受講させるため必要な措置を講じているか
- 性的言動、優越的な関係を背景とした言動による就業環境が害されることの防止に向けた 方針の明確化等の措置を講じているか
確認文書
- 雇用の形態(常勤・非常勤)がわかる文書
- 研修計画、実施記録 ・勤務実績表(勤務実績が確認できるもの)
- 方針、相談記録
業務継続計画の策定等(第3条の30の2)
- 感染症、非常災害発生時のサービスの継続実施及び早期の業務再開の計画(業務継続計画)の策定及び必要な措置を講じているか。
- 従業者に対する計画の周知、研修及び訓練を実施しているか
- 計画の見直しを行っているか
確認文書
- 業務継続計画
- 研修及び訓練計画、 実施記録
定員の遵守(第31条)
- 利用定員を上回っていないか
確認文書
- 業務日誌
- 国保連への請求書控え
非常災害対策(第32条)
- 非常災害(火災、風水害、地震等)対応に係るマニュアルがあるか
- 非常災害時の連絡網等は用意されているか
- 防火管理に関する責任者を定めているか
- 避難・救出等の訓練を実施しているか
確認文書
- 非常災害時対応マニュアル(対応計画)
- 運営規程
- 避難・救出等訓練の記録
- 通報、連絡体制 ・消防署への届出
衛生管理等 (第 33 条)
- 必要に応じて衛生管理について、保健所の助言、指導を求め、密接な連携を保っているか
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を講じているか
- 感染症又は食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会を6か月に 1 回開催しているか
確認文書
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための対策を検討する委員会名簿、委員会の 記録
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための指針
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修の記録及び訓練の記録
秘密保持等(第3条の33)
- 個人情報の利用に当たり、利用者(利用者の情報)及び家族(利用者家族の情報)から同意を得ているか
- 退職者を含む、従業者が利用者の秘密を保持することを誓約しているか
確認文書- 個人情報同意書
- 従業者の秘密保持誓約書
広告(第3条の34)
- 広告は虚偽又は誇大となっていないか
確認文書
- パンフレット/チラシ
苦情処理(第3条の36)
- 苦情受付の窓口があるか
- 苦情の受付、内容等を記録、保管しているか
- 苦情の内容を踏まえたサービスの質向上の取組を行っているか
確認文書
- 苦情の受付簿
- 苦情者への対応記録
- 苦情対応マニュアル
地域との連携等(第34条、第40条の16)
- 運営推進会議を概ね6月に1回以上(療養通所介護は12月に1回以上)開催しているか
- 運営推進会議において、活動状況の報告を行い、評価を受けているか
- 運営推進会議で挙がった要望や助言が記録されているか
- 運営推進会議の会議録が公表されているか
確認文書
- 運営推進会議の記録
事故発生時の対応(第35条)
- 事故が発生した場合の対応方法は定まっているか
- 市町村、家族、居宅介護支援事業者等に報告しているか
- 事故状況、対応経過が記録されているか
- 損害賠償すべき事故が発生した場合に、速やかに賠償を行うための対策を講じているか
- 再発防止のための取組を行っているか
確認文書
- 事故対応マニュアル
- 市町村、家族、居宅介護支援事業者等への報告記録
- 再発防止策の検討の記録
- ヒヤリハットの記録
虐待の防止(第3条の38の2)
- 虐待の発生・再発防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、従業者に周知しているか
- 虐待の発生・再発防止の指針を整備しているか
- 従業者に対して虐待の発生・再発防止の研修及び訓練を実施しているか
- 上記の措置を適切に実施するための担当者を設置しているか
確認文書
介護保険施設等運営指導マニュアルについて「別添1 確認文書・確認項目一覧」
- 委員会の開催記録
- 虐待の発生・再発防止の指針
- 研修及び訓練計画、 実施記録
- 担当者を設置したことが分かる文書
運営指導は怖いものなのか?
前述の確認項目を見るとチェックする場所の多さに驚いてしまう人もいるかもしれませんが、運営指導はただ単に介護事業所の悪い点を指摘するものではないことを理解しましょう。運営指導は、介護事業所の運営やサービス内容を評価し、改善点や良い取り組みをチェックしてくれる機会です。
経営者や管理者の皆様の中には運営指導を闇雲に怖いと感じている方がいるかもしれませんが、運営指導は行政の指導であり介護事業所にとって成長や学びの機会でもあります。運営指導をうまく活用して、介護事業所のサービス向上や利用者の満足度向上につなげていきましょう!
まとめ
日々の業務を的確にこなして、運営指導の対策をしっかりと行っておくことは、介護事業所のサービス向上にも役立ちます。運営指導の全容を把握できておらず、苦手意識を持っている方は一度この記事を読み直して、運営指導の意味や目的は何かということに立ち返ってみませんか?